医療にまつわる経済理論

業界の組織活動

医療経済学という言葉があるように、一般的な経済学とは事情が異なるようです。
医療にまつわる基本的な経済理論を起源ベースで明記するとこうなります。

  1. 医療保険の理論
    中古車市場におけるアカロフの「レモン市場」*のように、医療分野ではロスチャイルドスティグリッツのモデルがあります。いずれも情報の非対称性によっておこる市場自体が成り立たなくなり消滅してしまうという理論です。
    保険会社が個人の疾病リスクを判別できない場合(情報の非対称性がある場合)、高リスクの個人は低リスクの個人に販売される医療保険に入った方が効用が高い。保険会社はそれを避けるため、保険料を引き上げるが、そうするとさらに高リスクの個人しか保険に加入しなくなる。その結果、低リスクの個人は保険から排除される(逆選択)
  2. 医療サービスの需要
    実証結果によると、自己負担を高くすることで健康に悪影響を及ぼすことなく医療費を削減できるが、貧困且つ不健康な人たちに関してはこの限りではないことがわかっています。
  3. 健康の規定因子
    時代によって規定因子は変わっているようです。医療の発展、経済発展、公衆衛生の発展(過去)などです。
  4. 健康資本
    健康はストックであり年齢とともに少なくなる一方、食事や運動、医療を受けることで(投資)、健康のストックが増え、健康かつ活動的でいられます。

なぜ一般的な経済学が適用しづらいのでしょうか。市場原理が通用しない特徴があるようです。(経済学では市場の失敗と呼ぶようです)

医療保険に市場原理が通用しない理由

  • モラルハザード

プリンシパルエージェントモデル、医療保険について考えます。

プリンシパルがは自らの利益のために、労務の実施を他の人や組織(エージェント)に委任する概念です。当然ながらエージェントの方が情報を多く持っているため(専門知識含め)、情報の非対称性が生じます。エージェントの行動に歪みが生じ効率的な資源配分が妨げられます。
医師と患者の間にもこの構造下に支配されます。

モラルハザードは本来保険業界で使われていた用語でした。例えば、自動車保険に加入していて、保険で事故の損害が補償されるため、かえって事故の発生確率が上がってしまうことが考えられます。これは、医療についても同様でしょう。

  • 逆選択とリスク選択

逆選択とは、不健康な人ほど保険料が高いプランを購入し、健康な人ほど手薄なプランしか購入しない現象をいいます。本来、保険会社としては、健康な人に保険料が高いプランを買ってもらった方が、リスクは低く収益が増えるため、選択したいはずですが、そこには思い通りにいかない(加入者の方が自身の健康状態を把握している)ため、そのような現象が起こります。

リスク選択は、保険会社ができるだけ健康で、リスクが低く、利益につながるような顧客にしか保険を売らないようにすることです。

逆選択の行く末として、不健康な人の保険加入が増えることで、保険会社は保険料を上げざるを得ず、結果として、本来収益源になる健康な人を市場から排他してしまうことにつながります。あくまで理論上でしょう。実際のところ、保険加入時に不健康な人に限って保険料を上げる措置が取られています。

医療サービスに市場原理が通用しない理由

  • 情報の非対称性

異なる経済主体間で保有する情報に格差がある状態です。
歪みが生じ、適切な取引が行われない可能性が生じます。
例えば株式市場のインサイダー取引、保険の顧客の健康状態がわからない中での取引、不動産業、中古車市場など、いろんなところで情報の非対称性は生まれています。

情報の非対称性は顧客の困りごとともとらえられます。
理論的には情報の非対称性が解消されれば、効率的な市場が形成されます。中古車市場をれに取ると、売り手(ディーラー)は当然ながら中古車に関する情報を顧客よりも多く持っています。したがって、状態が悪いものでもできるだけ高く売ろうとします。
しかし、そうすると顧客も中古車を買わなくなります。そうなると、いい状態の中古車であっても顧客は買わなくなるため、市場には悪い状態の中古車ばかりが浸透し、市場取引自体がなくなる恐れがあります。その環境下で、信頼や透明性を糧にビジネスを行えば、顧客の悩みの解決にもつながります。

  • 不完全な競争市場

独占や寡占、独占的競争が不完全競争です。
完全競争の場合、生産者は多数で新規参入も容易、製品の差別化はなく、価格の支配力も企業にはありません。農業や水産業はその類です。

公益企業やファスナー企業などは独占に該当し、自動車や銀行も寡占でしょう。

独占的競争は、多くの企業、差別化された製品、参入退出の自由という3つの特長があります。差別化された商品なので、ある程度の価格設定権があります。しかし、新規参入が続くため次第に完全競争市場と同じように利潤がなくなってしまいます。ホテルや出版業がそれに該当するでしょう。

  • 多くの病気は緊急性が高く予測不能であること
  • 医療保険による市場の歪み
  • 外部性